「先端科学技術と民主主義」
梅林 宏道
特定非営利活動法人ピースデポ特別顧問

物理学から平和運動に転じた経緯もあって、科学技術と社会体制(単に社会ではない)との関わりにずっと関心をもってきた。
コロナ・ウィルス・パンデミックは、現在の世界システムのなかにおける科学技術の問題の諸相を啓示的に私たちに示した。
1.先端科学技術者のみがなしうる貢献は確かにある―新型ウィルスの特性のミクロな解明、その知見に基づくワクチンや新薬の開発・・・。
2.人々の専門家への期待と依存の心的態度は無自覚のまま無防備である―科学者も社会システムに組み込まれた普通の人間であることを、メディアも含めて、人々は忘れている。
発見や発明は研究機関や研究費の出所とつながっており、成果は製薬・医療機器会社や国家的競争のなかに投げ込まれる。現在の社会システムのなかでは、発見や発明が「世界の人々を救う」という言葉の意味は、たとえ医療分野のものであっても、貧困や差別の構造のなかで、その格差を広げながら人々を救うという結果を生む運命にある。
私たちのビジョンは、先端科学技術の生み出すものが、グローバルに格差を縮め、人々の平等を高めるような社会の在り方を目指すことであろう。そのためには、先端科学技術の進行が、幅広い市民社会の構成員によって決定されるような民主主義の在り方が求められる。
コロナ禍のなかで私たちが改めて確認できたことの一つは、緊急事態がおこると、見えてきた歪みの是正について、今あるシステムの中での対応に人々の関心が集中し、それが優先されることである。平凡なことであるが、結局のところ、私たちの平時の日常に主戦場がある。日々直面しているすべての民主主義に関わる実践の中味を問い、大小の制度的改革を重ねてゆくことの先に、私たちの大きなビジョンの輪郭がより鮮明になってゆく。